バスケットボールの試合を見ていると、解説者が「今のファウルドローは上手いですね」と唸るシーンがあります。一見すると単にファウルを貰っただけに見えますが、そこには高度なテクニックと駆け引きが存在します。
この記事では、現代バスケにおいてスター選手の必須スキルとも言える「ファウルドロー」の仕組みと、NBAでその技術を極めた3人の選手を紹介します。
ファウルドロー(Foul Draw)とは?
ファウルドローとは、直訳すると「ファウルを引き出す」こと。オフェンスがディフェンスの動きを読み、意図的に接触(コンタクト)を作り出すことで、審判にファウルをコールさせる技術です。
単なる「ダイブ(演技=フロッピング)」とは異なり、ルールブックの範囲内で相手の不用意な手や体の動きを利用する、非常にIQの高いプレイです。
なぜこのスキルが重要なのか?
- フリースローによる確実な得点:試合の流れが止まり、落ち着いて得点できます。
- 相手エースをファウルトラブルに追い込む:相手の主力選手をベンチに下げさせることができます。
- チームファウルを溜める:クォーター終盤、すべてのファウルがフリースローに繋がるボーナス状況を作れます。
NBA屈指の「ファウルドロー」職人たち
ファウルを貰う技術は、身体能力以上にバスケットボールIQが問われます。ここでは、特にその技術に長けた3名のNBA選手を紹介します。
1. ルカ・ドンチッチ(Luka Dončić)
ロサンゼルス・レイカーズ / ガード
「減速とパワーが生む芸術」
ドンチッチは決して足が速い選手ではありませんが、ファウルドローの天才です。彼の最大の特徴は「減速(Deceleration)」と「フィジカル」の使い分けです。
ジェイル(Jail):ドリブルで相手を抜き去りきらず、あえて自分の背中や腰にディフェンスを背負う(牢屋に入れる=Jail)状態を作ります。そこで急ブレーキをかけることで、後ろから突っ込んできた相手のファウルを誘います。
シュートフェイク:独特のリズムで相手を跳ばせ、空中にいる相手に自ら体をぶつけてフリースローを獲得します。
彼はニコニコしながら相手を翻弄し、気づけば大量のフリースローを打っている、まさにマジシャンのような存在です。
2. オースティン・リーブス(Austin Reaves)
ロサンゼルス・レイカーズ / ガード
「一瞬の隙を見逃さない、狡猾な若武者」
ドラフト外からレイカーズの主力へと這い上がったリーブス。彼の武器は、相手のディフェンスの「手の位置」を見逃さない観察眼です。
リップスルーの活用:ディフェンスが不用意に手を出した瞬間、下からボールをかち上げる動作(リップスルー)で腕を絡ませ、ファウルをコールさせます。
ボディコントロール:ドライブ中に空中で体をねじり、相手の接触があった瞬間にシュートモーションに入って「バスケットカウント(AND1)」をもぎ取る技術は、ベテラン選手のような老獪さがあります。
「なぜ彼ばかりファウルを貰えるんだ?」と相手チームが苛立つほど、ルールの隙間を突くのが上手い選手です。
3. ジェームズ・ハーデン(James Harden)
ロサンゼルス・クリッパーズ / ガード
「この技術を現代バスケに定着させたパイオニア」
最後の1人には、やはりこの男を外せません。ドンチッチやリーブスが使う技術の多くは、ハーデンがNBAで確立したものです。
ボールの露出:ドライブの際、あえてボールをディフェンスの目の前に晒します。相手がボールを叩こうと手を出した瞬間に、その腕に自分の腕を絡ませてファウルを貰う技術は神業レベルです。
ステップバック3:彼の代名詞であるステップバック3ポイントシュートも、ディフェンスが不用意に間合いを詰めればシュートファウル(3本のフリースロー)になるという恐怖があるため、相手はうかつに手が出せません。
NBAのルール自体が「ハーデン対策」のために変更されたこともあるほど、彼のファウルドローは歴史を変えました。
まとめ:ファウルドローは「賢さ」の戦い
ファウルドローが上手い選手というのは、単にずる賢いだけでなく、「相手が今、どう動こうとしているか」を誰よりも冷静に見ている選手たちです。
ドンチッチのパワー、リーブスの機転、そしてハーデンの技術。次に彼らの試合を見るときは、派手なシュートだけでなく、審判の笛が鳴った瞬間の「彼らのちょっとした体の動き」に注目してみてください。バスケットボールの奥深さが、より面白く見えてくるはずです。


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