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多くの韓国のバスケ選手が、フリースローでバンクショットを狙う理由

多くの韓国のバスケ選手が、フリースローでバンクショットを狙う理由 記事

バスケW杯の日韓戦を見ていて、「え、いまフリースローを“バンク”で打った?」と違和感を覚えた方も多いでしょう。リングに直接入れる“スウィッシュ”が当たり前だと思っていたのに、韓国の選手はバックボードに当てて沈める――しかもそれが一人や二人ではない。

実はかつて海外でも「KBL(韓国プロリーグ)ではフリースローをバンクだけで高確率に決める選手がいる」として映像がバイラルになり、世界中で「常識が覆るのか?」と話題になりました。

この記事では、なぜ韓国でバンクのフリースローが一定数残り続けるのかを解きほぐしていきます。

なぜ“韓国だけ”バンクFTが目立つのか その理由は?──「指導」ではなく「系譜」で残った

結論から言えば、韓国でバンクのフリースロー(Bank Shot Free Throw)が目立つ最大の理由は、リーグが組織的に教え込んだ技術ではありません。

むしろ逆で、全体を統括する指導カリキュラムがあるわけではないのに、ある伝説的シューターの成功体験が強烈すぎて、世代を超えた継承として定着した――これが本質です。

この記事では、継承の流れや現在の実態を詳しく追ったスポーツメディア「Defector」の特集「A Journey to Korea in Search of the Bank Shot Free Throw」から適宜引用しながら、韓国でバンクのフリースローが伝統として残った流れを整理していきます。


①始祖:90年代の“電子シューター” キム・ヒョンジュンの遺産

この独特なフリースロー・スタイルの起源として語られるのが、1990年代に「電子シューター(Electronic Shooter)」の異名を取った名手、キム・ヒョンジュンです。精密機械のようにシュートを沈めるその精度は、韓国バスケ界で“特別な記憶”として残っています。

彼が特徴的だったのは、フリースローでリングを直接狙う「スウィッシュ(ダイレクト)」ではなく、バックボード上の特定のポイントに当てて落とすルーティンを確立していたこと。練習ではバンクFTを90本以上連続で沈めたとも語られます。


②転換点:弟子ムン・ギョンウンに技術が受け継がれた

キム・ヒョンジュンは引退後、ソウル・サムスン・サンダースの指導者として後進を育てます。そこで歴史的な転換点となったのが、愛弟子のムン・ギョンウンへの伝授でした。

ムンは回想の中で、「恩師のアドバイスを受けてバックボードを使うようになり、そこから全てが上手くいくようになった」という趣旨の言葉を残しています。


③拡散:ムンが“象徴”になり、次世代が「真似して身につけた」

韓国KBLのスター選手であったムン・ギョンウンは、受け継いだバンクFTを自分の武器として完全に組み込み、KBLを代表するトップシューターとして一時代を築きました。スクリーンを使ってマークを外し、ノーマークで高確率ショットを打ち切る――いわゆる「シューターの教科書」的なプレースタイルの中心に、あのバンクFTもありました。

彼の得点力や記録が積み重なるほど、バンクFTは単なる変わり種ではなく、スター選手の象徴的ルーティンとして、ファンにも若手にも強烈な印象を残していきます。こうして、広がり方は「コーチが教える」ではなく、“見て育った世代が憧れで取り入れる”方向に進みました。

象徴的な例として挙げられるのが、学生時代にムンのプレーを見て感銘を受けたイ・ジョンヒョンです。彼は自分の意思でバンクFTを練習し、やがてそれをシグネチャー(自分の看板)として確立していきました。


④現象化:模倣の連鎖が進み、オールスターで5人全員バンク”の異常事態へ

この「個人の成功体験 → 目撃した世代の模倣 → さらに次の世代へ」という連鎖がリーグ内で静かに広がった結果、2015-2016シーズンのKBLオールスターでは、スターティング5人全員が日常的にバンクFTを使う選手で埋まる、世界的にも珍しい光景が生まれた――とされています。

ここまで来ると、もはや戦術でも流行でもなく、韓国バスケの中に“局地的な伝統”として根づいたと言っていいでしょう。


まとめ:答えは「キム → ムン → 次世代」

したがって、「誰が提唱したのか?」という問いへの歴史的な答えはこう整理できます。

  • 開発・実践:キム・ヒョンジュン(電子シューター)
  • 体現し象徴化:ムン・ギョンウン
  • 模倣と定着:ムンを見て育った世代(例:イ・ジョンヒョン)

そして何より重要なのは、ここまで強い系譜がありながらも、韓国で「バンクFTが主に推奨されたテクニック」として制度化されたわけではないという点です。だからこそ、韓国では今も「打つ人は打つ/打たない人は打たない」。それでも“残ってしまう”のは、この系譜が単なる技術ではなく、成功体験として語り継がれてきた文化だから――というわけです。

アメリカでも注目されていた「韓国選手のバンク・フリースロー」

この“バンクで打つフリースロー”が世界的に知られる直接のきっかけになったのが、2023年8月31日にEric Fawcettが投稿した以下の短い動画クリップでした。

Fawcettは「KBLでは、フリースローをバンクショットだけで打ちながら80%超の選手が複数いる」という趣旨を添えて投稿し、これが北米バスケ界のタイムラインに一気に流れ込みます。

米スポーツメディア「Defector」はこの一件を、「アメリカ側の多くの人が“韓国のバンクFT”を知った入口」と位置づけています。Fawcettがカナダのプロリーグ(CEBL)でビデオコーディネーターを務め、世界中の試合映像を見て“新しい攻撃のヒント”を探していた流れの中でKBLに目が留まり、あの投稿につながった――という背景まで含めて描写しています。

そこから話題は一気に拡大。アメリカのスポーツ/カルチャーメディアも「KBLのバンクフリースローがバズっている」と取り上げ、バンクFTが「普通は見ない打ち方」だからこそ、驚きと議論を呼んだことを紹介しました。

さらにこのバズは、単なる珍プレー扱いでは終わらず、「フリースローの常識を見直すべき?」という論点にまで発展します。実際に、米メディアではデータ分析の視点から「全員がやるべきではないが、“一部の選手”にとっては試す価値があるかもしれない」といった反応が引用されました。

ただし重要なのは、アメリカで注目が集まったからといって、韓国側で“バンクFTが公式に推奨される標準技術になっている”わけではないという点です。韓国スポーツメディア「Korea JoongAng DailyのJIM BULLEY記者も、投稿を紹介しつつ、チーム側の見解として「特別に推奨するトレーニングをしているわけではなく、結局は選手の好み」という趣旨を報じています。

韓国では「バンクFTの指導法」が確立されているわけではない

韓国でバンクFTが“公式に推奨される基本技術”として体系化されているわけではありません。

「韓国ではバンクショットのフリースローを“教えている”から流行しているのでは?」──この疑問に、現場側からはっきりと答えているのが、KBLソウル・サンダース(Seoul Thunders)のアシスタントコーチ、ブライアン・キム(Brian Kim)です。

Defectorの現地取材記事は、彼を“リーグ内部の案内役”として登場させ、バンクFTが組織的な推奨テクニックではないことを明確に語らせています。

キムはソウル生まれで、11歳のとき家族とともにカナダのブリティッシュ・コロンビアへ移住。大学はアメリカのディビジョンII(Vanguard University)でプレーし、その後KBLでプロキャリアを始めました。コーチとしては、デトロイト・ピストンズ傘下Gリーグのアシスタントを務めたのち、2021年からサンダースのコーチ陣に加わっています。つまり彼は、北米と韓国の両方のバスケ文化を知る当事者です。

そんなキムが、Eric Fawcettの動画投稿が拡散していた頃に北米のコーチ仲間から聞かれたのが、まさに「韓国ではバンクFTを教えるの?」という質問でした。彼の答えはシンプルです。

「『バンクショットって面白いね、教えてるの?』と聞かれた。でも僕は『こっちで推奨する人はいない。FT確立30%くらいで修正が必要な場合を除いて』と答えた」

この発言が示すのは、KBLでバンクFTが“見かけ上多い”のに、そこに全国的な指導カリキュラムや、コーチ主導の推奨があるわけではない、という事実です。むしろキムは、バンクFTを「韓国バスケの伝統(tradition)」と表現しつつも、指導の基本線としては「原則おすすめしない」「よほどの不振(極端な低確率)を直すときの例外」と位置付けています。

つまり、韓国でバンクFTが残っている理由は「みんなが習うから」ではありません。過去の名シューターの成功体験が“真似されて受け継がれ”、個人のルーティンとして定着することが許容される──この文化的な継承の形こそが、バンクFTが生き残っている最大の要因だと言えるでしょう。

つまり、韓国では、「バンクを打つ選手が一定数いる」のであって、「全員がバンクで高確率」という話ではありません。

じゃあ、韓国に3Pシューターが多い理由と関係ある?

バンクFTを打つこと自体が3Pの上達に直結するわけではありません。
フリースローは静止状態の短距離、3Pは動き・距離・疲労・チェックの圧が乗る別競技に近い。

ただし共通点があるとすれば、技術そのものではなく文化です。韓国バスケは歴史的に、サイズ差を埋めるためにアウトサイドの精度や連動(スクリーン、合わせ、判断)を磨いてきました。そこで育った「確率を上げるためなら工夫を厭わない」空気が、バンクFTのような“変わったルーティン”も生き残らせた――この意味での関連は語れます。

 


 
さいごに まとめ

日韓戦で目にした韓国選手のバンク・フリースローは、世界標準の新しい打ち方が普及した結果……というより、韓国バスケの中で受け継がれてきた「系譜(キム→ムン→次世代)」が、今も一部に残っている現象でした。

  • 起点は“電子シューター”キム・ヒョンジュン。彼の成功体験が、弟子のムン・ギョンウンへ渡り、スターの象徴的ルーティンとして強く記憶された。
  • 広がり方は「指導」ではなく「模倣」。コーチが一斉に教えたのではなく、見て育った世代が憧れと実利で取り入れた。
  • 韓国で体系的に推奨されているわけではない。現場の証言でも「基本はおすすめしない。極端な不振の矯正など例外的な場合に限る」という位置づけ。
  • 全員がやるべき万能技でもない。合う選手には武器になり得る一方、誰にでも当てはまる“正解”として制度化された技術ではない。

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