FAやトレードのニュースを見ていると、時々「〇〇がオプトインしてからトレードへ」という一見不思議な動きを目にします。
「残るためにオプションを使ったはずなのに、なぜすぐ移籍するの?」と感じる方も多いはず。
実はこれ、現代NBAではすっかり定着した移籍テクニックで、選手とチームの利害が一致したときに使われる戦略的な動きです。
仕組みを知ると、「なるほど、だからこういう移籍が成立するのか!」とニュースの背景がよく見えてきます。
NBAの「オプトイン&トレード」とは?
NBAでは、選手が契約の最終年にオプトイン(契約続行)した直後に、別チームへトレードされるケースがあります。これが「オプトイン&トレード(Opt-in and Trade)」と呼ばれる仕組みです。
一見すると「残留するためにオプションを行使(オプトイン)」しているのに、実際にはすぐ移籍するという少し不思議な動き。しかし、この方法には選手側にもチーム側にも明確なメリットがあるため、近年はメジャーな移籍手法として定着しています。
オプトイン&トレードが使われる理由
オプトイン&トレードが行われる背景には、主に次の3つのメリットがあります。
- バード権(Bird Rights)が移籍先に引き継がれる
→ 移籍先チームは、翌年サラリーキャップを超えてでも大型延長契約を提示できる。 - キャップスペースのないチームにも移籍できる
→ FAでは獲得不可能な選手でも、トレードであればサラリーを合わせて獲得可能。 - サイン&トレード時に発生する制限(旧CBAのハードキャップなど)を回避できる
→ 特に“勝ちにいく強豪チーム”はキャップが逼迫しているため、この方法が重要。
まとめると、「キャップスペースのない強豪チームに行きたい時に使う最も現実的な移籍手段」がオプトイン&トレードです。
仕組みの流れ(ざっくり)
- 選手が契約最終年のプレイヤーオプションにオプトインする
- その“確定したサラリー”を持った状態でトレード交渉が進む
- 移籍先チームが選手を獲得し、翌年以降の大型契約につなげられる
ポイントは、「オプトインしたことでサラリーが確定し、トレード素材として扱いやすくなる」という点です。
代表例:クリス・ポールのロケッツ移籍
2017年のクリス・ポール(当時クリッパーズ)は、この仕組みを最も分かりやすく示した例です。
- 本来はFAでロケッツとマックス契約を結びたい → 結果:ロケッツにはキャップスペースがない
- そこでポールは契約最終年にオプトイン
- 確定した契約のままロケッツにトレード
- 翌年、ロケッツがバード権を使って超大型延長契約を提示
クリッパーズも「FAでタダで流出される」よりは、選手+指名権が返ってくる方が得になるため、双方がメリットを得る構図でした。
近年の例:ポルジンギスのセルティックス移籍
クリスタプス・ポルジンギスも、ウィザーズでのPOをオプトインしたうえでトレードされ、セルティックスへ加入しました。
ボストンはキャップスペースがないため、FAでは彼を獲得できません。しかしオプトイン&トレードなら契約済みのサラリーを引き継ぐだけなので、成立可能になります。実際、移籍後すぐに延長契約を結び、このスキームの典型例となりました。
新CBAで難しくなりつつある?
2023年の新CBAでは、セカンドエプロン(超高年俸チーム)に対して強い制限が課され、次のような動きが禁止・制限されました。
- 複数選手の合算で高額サラリーを受け取る選手を獲得する
- サイン&トレードによる選手獲得
- トレード補助として現金を使用する
これにより、「キャップの苦しい強豪チームがスターをトレードで獲得する」難易度が上がり、オプトイン&トレードも以前ほど使いやすい移籍手段ではなくなりつつあります。
とはいえ、現代のキャップ運用では依然として有効な手段であり、特に大物選手の移籍の際にはまだまだ使われる可能性があります。
まとめ
オプトイン&トレードは、
- キャップスペースのないチームにも移籍できる
- バード権を移籍先に残せる
- 選手・元チーム・新チームの三者すべてが得をする可能性がある
という点から、スター選手がキャリアの次の一歩を選ぶうえで非常に強力な仕組みです。
新CBAで制限は増えていますが、「FAでは行きたいチームに行けない」という状況を打開する重要な選択肢であることは今も変わりません。
今後のオフシーズンでも、オプトイン&トレードが大物選手の移籍の鍵を握る場面はきっと出てくるでしょう。


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