NBAニュースを見ていると、「〇〇がオプトアウト」「△△はプレイヤーオプションを行使」といった言葉をよく目にしますよね。なんとなく「契約から抜けられる権利」くらいのイメージはあっても、次のような疑問が出てくると思います。
- そもそもオプトアウトってどんな仕組みなのか?
- プレイヤーオプションとETO(早期終了オプション/Early Termination Option)は何が違うのか?
いざ説明しようとすると、急にややこしく感じますよね。
この記事では、難解なCBA(NBA労使協定)の条文をできるだけかみ砕きながら、「オプトアウトって結局どういうゲームなのか」を、代表的な事例と一緒に整理していきます。「契約の細かい話は苦手…」という方でも読みやすいように、専門用語はできるだけ減らして説明していきます。

このページでは2023–2030年まで有効とされているCBA協定に基づいてお届けします!
オプトアウトとは?
まず大前提として、オプトアウトとは「選手が自分の契約を途中でやめて、完全フリーエージェントになる権利」のことです。
その権利を生み出している代表的な条項が、次の2つです。
- プレイヤーオプション(Player Option:PO)
- アーリー・ターミネーション・オプション(Early Termination Option:ETO/早期終了オプション)
どちらも「選手側だけが押せるスイッチ」で、押すと契約期間を短くできます。これによって選手は、例えば次のような選択ができるようになります。
- より良い年俸を求めて、市場に出る
- 優勝を狙えるチームへ移籍する
- あえて自分の年俸を下げて、チームの補強余地を作る
レブロン・ジェームズの「1+1契約」や、クリス・ポールの「オプトイン&トレード」は、この仕組みを最大限に活用した代表例です。
3種類のオプション条項:PO・ETO・TOの違い
プレイヤーオプション(PO)
プレイヤーオプションは、最もよく見かける「選手側のオプション」です。主なポイントは以下の通りです。
- 複数年契約の「最後の年」にだけ付けられる
- その最終年のサラリーを受け取る(オプトイン)か、破棄してFAになる(オプトアウト)かを選べる
- オプションの年のサラリーは、原則として前年より低くできない(わざと安くして選手の価値を抑え込むのを防ぐため)
- オプトインしたあとに延長契約を結ぶこともでき、柔軟性が高い
イメージとしては、「来シーズンどうするかを、最後に選手が決められる権利」と考えると分かりやすいです。
アーリー・ターミネーション・オプション(ETO)
ETOは、少しレアなタイプのオプションです。性格はPOと似ていますが、構造はかなり違います。
- 通常は5年契約などの長期契約の途中(例:4年目終了時)に設定される
- ETOを行使すれば、その時点で契約終了。行使しなければ最後の年まで続く
- ETOを持つ契約は、ETOを行使した後に延長することが基本的にできない
- ETOの対象年のサラリーは、前の年より低くしてもOK(POより設計の自由度が高い)
イメージとしては、「長期契約に、途中で抜けられる非常口を付けたもの」という感じです。ただし非常口なので、一度扉を開けたらそこで契約は終了、以降の延長もほぼできないという、かなり重いスイッチになっています。
チームオプション(TO)との対比
よく混同されがちなのが、チームオプション(Team Option:TO)です。名前は似ていますが、こちらは「チーム側が決める権利」になります。
- ルーキー契約やベンチプレイヤーの契約に付くことが多い
- 契約の最終年を実行するかどうかをチームが選ぶ
- 選手には選択権がない
まとめると、
- PO・ETO → 選手の権利(オプトアウトの源)
- TO → チームの権利
となります。この「誰が決定権を持っているか」が、そのまま交渉力(レバレッジ)の差につながります。
いつまでにオプトアウトを決めないといけない?
PO・ETOともに、行使できる期限はCBAで明確に決められています。
- そのシーズンが始まる前の6月29日 17:00(東部時間)までに通知が必要
- ただし、RFA(制限付きFA)になるケースだけ6月25日が締切
NBAでよく見る「○○が締切ギリギリでオプトアウト!」というニュースは、この期限が背景にあります。
オプトアウト戦略の代表的な実例
レブロン・ジェームズ:1+1契約で毎年プレッシャーをかけ続ける
オプトアウト戦略を一気に有名にしたのが、レブロン・ジェームズの「1+1契約」です。これは、
- 1年目:通常の契約
- 2年目:プレイヤーオプション
という、「実質1年契約+選手側の保険」という形です。レブロンは2014年にキャブズに復帰してから、この形を連発しました。
キャップ上昇の恩恵をフルに取る
NBAのサラリーキャップ(サラリーの上限)は、リーグの収入に応じて毎年変動します。特に2016年の放映権契約更新でキャップが一気にジャンプ(キャップスパイク)したとき、
- 長期マックス契約を結んでいた選手:昇給率が5〜8%程度で固定
- 毎年1+1でオプトアウトしていたレブロン:毎年「新しい高いキャップ」に合わせて再契約
という差が生まれました。その結果、レブロンは数千万ドル単位の「上乗せ収入」を得たと言われています。
フロントへの「常時プレッシャー装置」
1+1契約の本当に怖いところは、「フランチャイズスターが毎年FAになる」という点です。これによってフロントは常に、
- 補強に消極的だと「来年出ていかれるかもしれない」
- ドラフト指名権を出してでも即戦力を集める必要がある
- ラグジュアリータックスも覚悟しなければならない
という状況に追い込まれます。レブロンは、自分の契約形態を通して、「勝てるチームを作らないなら出ていく」というメッセージを、常にフロントに突きつけていたとも言えます。
「減俸オプトアウト」:自分の給料を下げてチームを強くする
オプトアウトは「もっとお金をもらうため」だけの仕組みではありません。あえて自分の年俸を下げるためにオプトアウトし、その分の余白でチームメイトを残したり、新しい選手を獲得したりするケースもあります。
ケビン・デュラントの1,000万ドルディスカウント
2017年、ウォリアーズのケビン・デュラントは、マックス契約を取れる立場にありながら、POを破棄してあえて安い金額で再契約しました。その差はおよそ1,000万ドルと言われています。
この減俸によって、
- アンドレ・イグダーラ
- ショーン・リビングストン
といったキーメンバーを残すためのサラリー枠を確保でき、結果的にチームの連覇につながりました。個人の財布的には損でも、「優勝するための投資」としてデュラント自身が選んだ形です。
ジェームズ・ハーデンのフィラデルフィア実験
ジェームズ・ハーデンも、76ersで同じような選択をしました。POを破棄して年俸を大きく下げ、その余裕でP.J.タッカーらの獲得につなげたパターンです。
ただしこの動きはあまりに「筋が良すぎた」ため、「将来どこかで穴埋めする裏約束があったのでは?」とリーグに疑われ、タンパリング調査が入るなどの波紋も呼びました。
ダーク・ノビツキーの献身
ダーク・ノビツキーは、キャリアを通してほぼ一貫して「ダラスで優勝を目指す」ための減俸を続けてきた選手です。マックス級のオファーを蹴り、自チームでは格安の複数年契約を選び続けた結果、
- マブスに常に補強の余地が生まれる
- 「チームの顔」として長くプレーし続けられる
という形になりました。オプトアウトを「生涯ワンチームのためのツール」として使った、稀有な例と言えるでしょう。
オプトアウトの失敗例
もちろん、オプトアウトや「もっといい契約を狙う」という選択が、いつもうまくいくとは限りません。典型的なリスクが、
- 怪我
- 市場の冷え込み
- 自分の評価の見誤り
です。
ナーレンズ・ノエル:7,000万ドルを断った男
ナーレンズ・ノエルは、ダラスからの4年7000万ドル級オファーを「自分はもっともらえるはず」と考えて断り、1年だけの安い契約を選びました(翌年の完全FAで大きな契約を狙うための「賭け」)。
しかしそのシーズンに怪我と不振が重なり、翌夏にはほぼミニマム契約しか出てこない状態に。結果として、拒否した金額の半分も稼げなかったと言われています。
オプトアウトや短期契約は、「自分の市場価値に自信があるときだけ有効」であり、そこを見誤るとキャリアと収入に大きなダメージを残してしまうことがわかる代表例です。
まとめ
オプトアウトという仕組みは、単に「契約から抜けられるかどうか」ではなく、
- どこでプレーするか(場所の自由)
- いくら稼ぐか(経済的な自由)
- どれだけ勝ちにこだわるか(競争への姿勢)
といった選手の価値観がそのまま表に出る瞬間でもあります。
新CBAで抜け道はかなり塞がれてきましたが、それでもトップ選手たちは、ルールのギリギリを攻めながら自分のキャリアをデザインし続けています。
これからFAやトレードのニュースを見るときは、「このオプション行使には、どんな狙いがあるんだろう?」と考えてみると、オフシーズンがグッと面白くなるはずです。



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